「あ、琴葉。おはよう。もう、大丈夫なの?」
──日和ちゃんだ。ゆうべ、ノートで顔と名前を覚えておいて、よかった。
「お、おはよう。うん、平気。検査だけだったから」
「よかった。無理しないでね」
日和ちゃんは、そう言って自分の席に戻っていった。その背中を見送りながら私は、息を吐く。
そのとき、数人のクラスメイトが、わっと私を囲んだ。
「琴葉! 昨日、大丈夫だった?」
「予行練習で倒れたって聞いて、びっくりしたよ!」
「顔色、悪くない? 保健室、行く?」
みんなの心配そうな目が、いっせいに私に向く。
「だ、大丈夫。ちょっと、貧血で。心配かけて、ごめんね」
なんとか笑顔を作ると、みんなは、ほっとしたように息をついた。
「琴葉、いつも頑張りすぎだもん」
「無理しちゃだめだよ」
……みんな、琴葉のことを、こんなに心配してくれてるんだ。
胸の奥が、少しだけ温かくなる。
それと同時に、この優しさを偽物の私が受け取っていいのかな、という迷いが、ちらりと顔を出した。
琴葉の机──今日から私の机──に、カバンを下ろした。
机の中には、教科書とノートが、定規で測ったようにきっちり並んでいた。
ノートの背表紙には、教科ごとに色ちがいのシール。筆箱の中の鉛筆は、全部、同じ長さに削られている。
……ここまで整っていると、逆に、触るのが怖い。
教室を見回して、思わず言葉を失った。リボンの結び方も、ブレザーの丈も、みんなきちんとしていて、おしゃれだ。筆箱は見たこともないブランドで、万年筆を使っている子までいる。
うちの中学とは、何もかも違う。



