「お、おはよう……」
何とか挨拶を返す私。
ちょっと、待って。琴葉のノートに名前がない。ということは、この子は……琴葉にとってどれくらいの人?
「昨日、全体練習の途中で倒れたって聞いて、びっくりしたよ。もう大丈夫なの?」
「う、うん! ちょっと、貧血で」
「よかったあ。体育祭の実行委員、本番もよろしくね」
女の子は手を振って、行ってしまった。たった一言かわしただけなのに、心臓がバクバクしている。
「椎名さん、おはよう」
今度は、落ち着いた低い声だった。
すらりと背の高い男子が、まっすぐこちらを見ている。黒い短髪に、涼しげな目元。
──あれ、この人。
見覚えのある顔に、心臓が、どくん、と跳ねた。昨日、病院の廊下で、道を教えてくれた子だ。
うそ、琴葉と同じ学校だったんだ。
驚きで、声が出なかった。
ノートに書かれていた名前が、頭の中で遅れて光る。この子が、加賀見瑛くんだ。
「あ……おはよう」
声が上ずった私に、加賀見くんはほんの少しだけ目を細めた。
「今日は、いつもと雰囲気がちがうね」
え。まさか、もうバレた!?
私は、息が止まりそうになった。心臓の音まで聞こえているんじゃないかと思うほど、耳の奥がどくどくと鳴っている。
でも彼は、「気のせいか」と小さく首をかしげて、教室のほうへ歩いていった。
助かった……。詰めていた息を吐いたところで、さっきの女の子の言葉が、遅れて頭の中で鳴った。
──体育祭の実行委員、本番もよろしくね。
実行委員?
琴葉のノートには、そんなこと、一行も書いていなかった。
下駄箱の前で、私は上履きを握りしめたまま、動けなくなった。
四十五日、あるんだよね……?
大丈夫かな、私。



