「当たり前でしょう。留学するのは、琴葉さんだけど、支えてきたのは、あなたでもあるんだから」
その一言に、目の奥が、ふっと緩んだ。
北条さんも、たまに差し入れを持ってきてくれた。
「はい。これ、麦茶。熱中症に、気をつけてね」
「ありがとう、北条さん」
「茉優でいいよ。もう、堅苦しいの、なしにしようよ」
そう言って笑う顔に、私もつられて笑った。
「そうだね。ありがとう、茉優ちゃん」
◇
一週間、二週間と、日々は静かに過ぎていった。
学校には行かず、家と温室を、往復するだけの毎日。それでも、退屈だとは、不思議と思わなかった。
土をいじりながら、これまでのことを何度も思い返した。
体育祭の日、雨の中を走ったこと。バトンのことを、自分から言った日。琴葉と交わした、指切りの約束。
一つ一つの記憶が今、静かに自分の中に、積み重なっていくのが分かった。
種を蒔いてから十日ほどで、小さな緑の芽が土から顔を出した。
「あ……」
思わず、声が出た。用務員のおじさんが、隣でにっこり笑う。
「ほら、育ってるだろう」
「はい」
小さな芽を見ていたら、なぜか目の奥が熱くなった。



