翌朝。紺色の制服に袖を通し、鏡の前でウィッグをつけて、三つ編みをきつめに結ぶ。
顔を上げた瞬間、私は息をのんだ。
きっちりと結んだ三つ編み。ぴしっと丈の合ったスカート。鏡の中にいたのは、どこからどう見ても「明凰学園の、椎名琴葉」だった。
「……よし」
私は鏡の中の自分に向かって、笑みを浮かべてみせる。
「行ってきます、琴葉」
そう言うと、私は玄関を出た。
◇
電車を乗り継ぎ、最寄り駅に降りた私は、その景色に圧倒された。
初夏の澄んだ青空の下。駅前のロータリーには、黒くてぴかぴかの高級車が、ずらりと並んでいる。運転手さんが、降りてくる生徒のために、ドアを開けていた。
す、すごい……。
校門をくぐると、写真で見たお城が写真よりずっと大きく、目の前にそびえていた。
ツタの絡まる石の壁に、大きなアーチ型の窓。中庭には、手入れの行き届いた花壇と、ガラス張りの温室まである。風に乗って、甘い花の香りが漂ってきた。
「ここ、本当に学校?」
こぼれた呟きは、幸い誰にも聞かれなかったようだった。
すれ違う生徒たちは、みんな余裕たっぷりの顔で歩いている。私だけが、緊張で顔をこわばらせて、明らかに場違いだ。
「ごきげんよう、椎名さん」
上品に会釈をされて、私は反射的に、声を裏返した。
「ご、ごきげんよう……!?」
本当に言うんだ、この挨拶。
下駄箱に向かって歩いていると、今度は後ろから声をかけられた。
「椎名さん、おはよう」
振り返ると、知らないポニーテールの女の子が、笑顔で手を振っている。
えっと、誰だっけ……。



