夏休み。奉仕活動、初日の朝。
温室の扉を開けると、むっとした熱気と土の匂いが、迎えてくれた。
ガラス越しの日差しが、緑の葉を透かして光らせている。
奥の棚に、見覚えのある、几帳面な字の札が並んでいた。
『カモミール』『ミント』『ラベンダー』
あの日、こっそり見せてもらった鉢植えが、少し大きくなっている。
──ちゃんと、育ってたんだ。
胸の奥が、じんと温かくなった。彼が、誰にも言わずに守ってきた場所を、今度は私が引き継ぐ番なんだ。
「椎名さん、初めまして。今日から、よろしくね」
温室の管理をしている、用務員のおじさんが、日焼けした顔で、にこりと笑った。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「じゃあ、まずは水やりから」
私は軍手をはめて、じょうろに水を汲んだ。
──嘘をついて、たくさんの人に助けられた。
花壇の雑草を一本ずつ、丁寧に抜いていく。
でも、嘘は嘘だった。
汗が、額からぽたりと落ちる。
──次は噓じゃなくて、自分の名前でここに来る。
その一心で、私は手を動かし続けた。



