「中学受験のとき。琴葉が受かって、私は受けなかった。ずっと、『別に受けたくなかった』って、自分にもみんなにも噓をついてた」
喉の奥が、熱くなる。
「本当は、悔しかった。私にも、何か誇れるものが欲しかった。だから、あの日、琴葉に頼まれたとき、ちょっとだけ嬉しいって、思っちゃったんだ」
「彩葉……」
母の目に、涙が浮かんでいた。
「今回のことで、分かったの。私、ちゃんと勉強すれば、できないことはないんじゃないかって。だから──」
私は一度、深呼吸をした。
「二年後、高校受験のとき、明凰学園の特待生入試、受けてみたい」
リビングにしばらく、静かな時間が流れた。
父と母が一瞬、顔を見合わせた。うちの家計では、特待生になれなければ、通わせられない。それは、あの日と同じ現実だ。
父が、少し言葉に詰まったように口を開きかけて、いったん閉じた。それから改めて、私をまっすぐ見た。
「……そうか」
その一言には、いろんな感情が詰まっているように聞こえた。
「今度は噓じゃなくて、彩葉自身の名前で挑戦するんだな」
「うん。いいかな?」
「特待生じゃないと、正直、厳しいのは変わらない」
父は、正直にそう言った。
「でも、お前がそこまで言うなら、応援しないわけにはいかないだろう」
母が、涙を拭いながら笑った。
「当たり前でしょ。あなたは、私たちの自慢の娘よ。彩葉も、琴葉も」
「わたしが、勉強教える」
琴葉が、私を見て言った。
「留学に行く前に、できるだけたくさん」
「ありがとう。頼りにしてる」
私たちは、顔を見合わせて笑った。窓の外では、夏の虫が賑やかに鳴いていた。



