「家の病院を継ぐって、生まれたときから決まってる。でも、今日、院長として来てた父さんを見て、ちょっと思ったんだ。継ぐんじゃなくて、自分で選んで、医者になりたいって」
その言葉は、選べなかった私と、選ばせてもらえなかったこの人の、どちらにも重なる気がした。
「……いいと思う。その選び方」
「うん。父さんは国内の医大に行けって言うけど……できるなら、外国の医療も、一度この目で見てみたいんだ。まだ、口には出してないけど」
少し照れくさそうに、加賀見くんは付け足した。
夕方の風が、二人の間を通り抜けていった。
◇
その夜。我が家の食卓には、いつもよりたくさんの料理が並んだ。
母が作った、唐揚げと、グラタンと、オムライス。
全部、私と琴葉の好物ばかり。
家族四人でゆったりと囲む食卓は、ひどく久しぶりに感じられた。
「彩葉。奉仕活動、大変だと思うけど」
父が、箸を止めて言った。
「うん。頑張る」
「無理は、するなよ」
「……分かった」
短いやりとりに、あの日病室で交わした約束が生きている気がした。
食事の途中、ずっと温めていたことを口にする勇気を、私はやっと持てた。
「あの、ね」
「なに?」
母が顔を上げる。
「私、本当は……明凰学園を、受けたかった」
両親が、はっとした顔で私を見る。



