「校長先生。私にも責任があります。特例を一切認めない、という言い方をしたのは、私です。生徒を追い詰めていたことに、気づけませんでした」
校長先生は、しばらく目を閉じていた。それから、渡辺先生のほうを見た。
「渡辺先生は、何か意見はありますか」
渡辺先生は少しの間、言葉を選ぶように間を置いた。
「私は家の事情で、行きたかった高校を、諦めた経験があります。だから、記録や公平性には、人一倍、厳しくあるべきだと、ずっと思ってきました」
その声は、いつもの鋭い問いただす声ではなかった。
「でも、今回のことで、少し考えが変わりました。公平さを守ることと、事情のある生徒を追い詰めることは本来、同じではないはずです」
彼女は、そこで初めて私のほうに顔を向けた。
「椎名さん。あなたの噓を許すわけではありませんが、受けたくても受けられなかった気持ちには、覚えがあります」
耳の奥がじんと熱くなった。この先生も私と同じ諦めた経験を抱えていたんだ。
加賀見院長は、一枚の書類を机の上に置いた。
「先日お送りした意見書の、正式なものです。椎名琴葉さんの治療経過と、選考制度についての、医師としての意見をまとめています。過労で倒れた生徒に対して、出席の空白を理由に、資格そのものを失わせる仕組みには、改善の余地があると考えます」
それから、院長は隣の加賀見くんに、ちらりと目をやった。



