四十五日目の朝は、雲ひとつない青空だった。
洗面所の鏡の前に立つ。いつもなら、この時間にウィッグをかぶって、三つ編みをピンで留める。体が、その手順を覚えてしまっていた。
……今日は、つけない。昨日の夜、そう決めた。
鏡の中には、短いショートヘアの、私自身が映っている。何度も何度も、隠してきたこの髪。
クローゼットの奥の箱が頭をよぎり、一瞬だけ指先が迷った。私はその手をぎゅっと握りしめる。
「これで、いい」
小さく呟くと、迷いは静かに消えていった。
「彩葉ちゃん」
洗面所のドアの向こうから、琴葉の声がした。振り返ると、制服姿の妹が立っていた。
腰まで伸びた黒髪が、いつもどおり三つ編みに結われている。
久しぶりに見る、本物の椎名琴葉の制服姿だ。
「ウィッグ、つけてないんだね」
「うん。今日は、もういいかなって」
琴葉はしばらく、私の髪を見つめていた。それから、小さく笑った。
「彩葉ちゃんらしくて、いいと思う」
私は久しぶりに、自分の制服に袖を通した。地元の中学の、見慣れたセーラー服。
それを着ながら、今日だけは琴葉と並んで、明凰学園の校門をくぐる。
キッチンでは、母がお弁当を包んでいた。
「今日は、二人分ね」
母の手が、かすかに震えているように見えた。



