私は、何も言えなかった。ただ、琴葉の手を、ぎゅっと握った。
琴葉は、袖で乱暴に目をこすって、それから小さく息を吸った。
「でもね。彩葉ちゃんには、幸せになってほしいのも本当なの。だって、彩葉ちゃんは、わたしのために、四十五日間も頑張ってくれたんだから」
「琴葉……」
「それに」
琴葉は涙の跡が残る顔で、いたずらっぽく笑った。
「留学したら、しばらく会えなくなるし。今は、この片想い、きれいにしまっておくことにする。……たぶん、ちょっと時間はかかるけど」
その笑顔には、まだ少しだけ痛みが残っていた。それでも、どこか晴れやかだった。
「ありがとう、琴葉」
「ううん。ありがとうは、こっちの台詞」
夕焼けの中、私たちは涙の跡が残ったまま、しばらく二人で笑い合った。それからまた、並んで歩き出した。
◇
その夜。家族がリビングに集まった。
母も父も、ここまでの経緯を改めて聞いて、しばらく言葉を失っていた。
「……琴葉」
父が、名前を呼んだ。
琴葉は、深く頭を下げた。
「お姉ちゃんに、こんな大変なことを頼んでごめんなさい。わたしが、弱かったから」
声が、震えている。
「わたしのわがままで、お姉ちゃんに、たくさんの人を騙させてしまった。友達にも、先生にも、加賀見くんにも」
「琴葉……」
「本当に、ごめんなさい」
琴葉の目から、涙がぽろぽろとこぼれ落ちる。
私も、両親に向かって頭を下げた。
「私も、ごめんなさい。黙って、いろんな人を騙して」



