「……ごめん、今は答えられない」
やっとのことで、私はそれだけ告げた。
「琴葉に、まだちゃんと話せてないの。この気持ちのこと。だから、答えるのは、それから。身代わりのけじめもつけたいし」
加賀見くんは、驚いた顔をしてから、静かに息を吐いた。
「分かった。待つ」
短い返事だったけれど、その声には迷いがなかった。
その日は一日中、授業の内容が、まるで頭に入ってこなかった。
先生の声が、遠くで聞こえるみたいに、ぼんやりしている。窓の外を見ながら、何度も、加賀見くんの言葉と琴葉の顔を、交互に思い浮かべていた。
──明日、藤原先生にちゃんと話そう。
そう決めて、私は帰り支度をした。
◇
その夜。家に帰ると、琴葉がリビングで、参考書を片づけていた。
「琴葉。話したいことがあるの」
隣に座って、ここ数日の出来事を、順番に話した。
渡辺先生に呼ばれたこと。紬さんに打ち明けたこと。そして、これから、藤原先生にすべてを話そうと決めたこと。
琴葉は、最後まで黙って聞いていた。それから、まっすぐ私を見た。
「わたしも、行く」
「え、でも」
「彩葉ちゃんだけに、謝らせるわけにはいかないよ。これは、わたしが頼んだことなんだから」
琴葉の声には、迷いがなかった。
「一緒に、行こう」
「……うん。ありがとう」
その夜。私たちは、明日話すことを、二人でノートに書き出した。
何を、どの順番で話すか。二人分の字が並んだページは、これまでのどの日のノートよりも心強く見えた。



