「俺……その、琴葉さん……じゃなくて」
言い間違えたことに、自分でも気づいたらしい。加賀見くんの顔が、みるみる赤くなっていく。
「い、いや、違う。今のなし。ずっと『琴葉さん』って呼んでたから、つい……あー、もう。緊張してるだけだから。もう一回、いいか?」
「……どうぞ」
思わず、笑いそうになるのを堪えた。
いつも冷静な加賀見くんが、こんなに動揺しているところを見るのは、初めてだった。
「俺は……椎名彩葉が、好きだ」
今度は、ちゃんと言えた。
それでも早口で、絞り出すように言うと、加賀見くんは、ふいと顔を背けた。耳が、いつもよりずっと赤い。
時間が、止まった気がした。
好き? 加賀見くんが、私を?
「最初に意識したのは、実行委員会の日だった。道具の運び方、リレーみたいにしたら速いって、提案しただろ。あんな発想、それまで誰もしなかった」
加賀見くんは、まだこちらを見ないまま続けた。
「それからずっと、目で追ってた。体育祭で、全力で走ってるお前。バトンのこと、自分から言ったお前。今、こうやって逃げないで、けじめをつけようとしてるお前が……好きだ」
最後の一言だけ、また小さくなった。
胸の奥で、何かが大きく震える。朝の光が、加賀見くんの横顔を静かに照らしていた。
一瞬、頭の中に、琴葉の声がよみがえった。
『わたし、加賀見くんのこと、たぶん、好き』
嬉しい。でも、それと同じくらいに苦しい。琴葉が、ずっと大事にしていた気持ちの先に、私が立っているなんて。



