代わりに頭に浮かんだのは、体育祭の前、用具庫でバトンを見つけたときのことだった。
あのとき、私はこう思ったはずだ。
迷わずに、自分から言う。琴葉なら、きっとそうする。
あのときと、今と。状況は違っても、答えは同じだった。
見つかる前に、自分から言う。それだけが、噓をついている自分にできる、たった一つの誠実さだった。
私はスマホを取り出して、加賀見くんにメッセージを送った。
【明日の朝、話したいことがあるの。病院の、屋上庭園で会える?】
すぐに、返信が来た。
【分かった】
◇
翌朝。加賀見総合病院の屋上庭園は、朝の光で白く輝いていた。
ベンチに座って待っていると、加賀見くんが階段を上がってくるのが見えた。
「わざわざ、ごめんね。話したいことがあって」
「職員室に呼ばれたんだろ。桜庭さんから聞いた」
「そう。そのことなの」
私は、膝の上で手を握りしめた。
「私……先生に全部、話そうと思ってる」
加賀見くんは驚いた様子もなく、ベンチの隣に腰を下ろした。花壇の向こうに、白衣のスタッフが、朝の見回りをしているのが見えた。
「そうか。……あのさ。実は、俺……学校で最初にお前を見た日から、気づいてた。琴葉さんじゃないって」
突然の告白に、頭の中が真っ白になった。



