言い逃れなら、まだできる。「体調のせいで」「緊張して手が震えて」。そう言えば、この場はなんとかなるかもしれない。
でも。
『琴葉なら、絶対に、自分から言う』
用具庫の棚の奥で、なくしたバトンを見つけたあの日の自分の声が、頭の中でよみがえった。
あのとき、正直に言えたから、紬さんとの今の関係がある。今度も、きっと同じだ。
「今日のところは一旦、保留にする」
教頭先生が言った。
「留学選考日の朝、校長室に来なさい。それまでに、私たちも調べる」
保留。まだ決まっていない。逃げようと思えば、逃げられる。
「……はい」
それだけ答えて、私は職員室を出た。廊下の窓から差しこむ光が、やけに眩しかった。
教室に戻る途中、廊下の角で日和ちゃんが待っていてくれた。
「大丈夫だった?」
「今日のところは、保留だって」
「そっか」
日和ちゃんは、ほっと息をついた。私は少し迷ってから、口を開いた。
「日和ちゃん。あとで、紬さんにも話したいことがあるの。一緒に来てくれる?」
「もちろん」
日和ちゃんは、私の手を取った。
「紬には、私から声をかけておくね」



