あの夜。結局、電話には出られなかった。留守番電話には、事務的な女性の声が短く残されていた。
『明日、確認したいことがございますので。朝、職員室までお越しください』
それだけだった。一晩中、その声が頭の中で繰り返し再生された。
翌朝、火曜日。教室に入ってすぐ、藤原先生が声をかけてきた。
「椎名さん。少し、職員室まで来てくれますか」
その一言で、教室の空気が、すっと張りつめた。日和ちゃんと、目が合う。
心配そうな顔つきの彼女に、私は目だけで「大丈夫」と伝えて、席を立った。
◇
職員室の奥、パーティションで区切られた小さな一角に、数学の渡辺先生と、教頭先生が待っていた。
長机の上には答案用紙の束と、サマーガラの参加カードが、並べて置かれている。
「かけなさい」
促されるまま、椅子に座る。膝の上で、私は手をぎゅっと握った。
「はっきり聞くけど」
渡辺先生が、答案を一枚、こちらに向けた。
「出席記録は、完璧。休んでいた形跡もない。ただ、六月中旬を境に、答案の筆跡が、明らかに変わっている。体育祭の走りも、去年の記録とは、まるで別人だった」
指先が、冷たくなっていく。
「これに、心当たりは?」



