月曜日の朝。下駄箱に向かうと、日和ちゃんが急いだ様子で駆け寄ってきた。
「彩葉ちゃん、大変! さっき、職員室の前を通ったら聞こえたの」
「何が?」
「渡辺先生が担任の藤原先生に、『椎名さんのこと、少し調べたい』って」
身体から、血の気が引いていくのが自分でも分かった。
「……いつ?」
「分からない。でも、たぶん、そんなに、時間はないと思う」
日和ちゃんはそこまで言って、私の腕にそっと触れた。
「彩葉ちゃん、大丈夫?」
「……分からない」
正直に、答えるしかなかった。手のひらがじっとりと、汗ばんでいる。
昇降口の窓から、夏の日差しが差しこんでいた。いつもと同じ朝のはずなのに、今日はその光さえ、居心地が悪かった。
その日の放課後。家に帰ると、リビングで琴葉が、ソファに座ったまま、うたた寝をしていた。膝の上には、開いたままの英語の参考書。
私のために勉強していて、そのまま眠ってしまったらしい。
起こさないようにそっと、毛布をかけた。穏やかな寝顔を見ていると、これまでの噓の重さが、余計に胸に迫ってきた。
この寝顔を守るために、私はこれから何を選べばいいんだろう。
そのとき、テーブルの上で、私のスマホが短く震えた。
画面には、知らない番号。
──明凰学園、事務局。
「……っ」
指先が画面の上で止まったまま、動かなかった。



