「あ、いや、何度も足踏んだけどね」
「ふうん」
望月くんは、グラスを傾けながら、ちらりと加賀見くんのほうを見た。それから、へらっと、いつもの調子で笑った。
「まあ、俺は、テニスコートで待ってるから。気が向いたら、いつでも」
そう言い残して、望月くんは友達の輪のほうへ戻っていった。
今のは、テニス部の勧誘だったのかな。深い意味はなさそうだし、きっと、それだけのことだ。
グラスの中の炭酸が、しゅわしゅわと、小さな音を立てている。
私の頭の中は、さっきのダンスの続きで、いっぱいだった。望月くんの言葉より、加賀見くんの手のひらの感触のほうが、ずっと強く残っている。
受付のそばのテーブルに向かって、歩いていたときだった。
数学の渡辺先生が、名簿と来賓用のメッセージカードを見比べながら、こちらを見ていた。
「……椎名さん」
「は、はい」
「先ほどの、ダンスの申込書。あなたが、名前を書いたのよね?」
差し出されたのは、入場時に書いた、簡単な参加カードだった。私の字で、『椎名琴葉』と書いてある。
「これと、一学期の中間試験の答案。……字が、随分と違うようだけど」
心臓が、大きく跳ねた。
「そ、それは……」
「気のせいかしら。体育祭の走りも、去年とはまるで別人だったし」
先生は探るような目で、じっと私を見つめてくる。
「それに少し前、SNSで見かけたのよ。『明凰学園の生徒に、そっくりな双子がいる』っていう、投稿。すぐに消えたようだけど。学園名が入っていたから、たまたま目に留まって」



