言うが早いか、音楽が始まる。最初の一歩で、私は思いきり、加賀見くんの足を踏んでしまった。
「あ、ご、ごめん!」
「……平気だ」
顔をしかめながらも、加賀見くんはステップを止めなかった。二曲目も、似たようなものだった。何度も足がもつれて、何度も謝った。
気がつけば、何曲も踊っていた。ようやく、リズムが合ってきた頃には、周りの音も、視線も、少しずつ気にならなくなっていた。
「ほら、できてる」
「ほんとだ……」
くるり、と回されて、視界がシャンデリアの光で一瞬、白く染まる。
「無理して、笑わなくていいからな」
耳元で囁かれて、私はつい本音がこぼれた。
「緊張して、顔、引きつってると思う」
「知ってる。ずっと、引きつってる」
「ひどい」
「でも、それでいい」
加賀見くんはそう言って、初めて、心の底から笑ったような顔をした。
「琴葉さんは、いつも完璧な笑顔だから。今日みたいな顔、悪くないと思う」
音楽が静かに、終わりに近づいていく。私は何も答えられないまま、ただ、彼の手の温かさだけを感じていた。
◇
ダンスが終わって少し休もうと、受付のそばのテーブルに向かった。
「椎名さん」
振り返ると、少し着崩したジャケット姿の望月くんが立っていた。
「さっきのダンス、見てたよ。加賀見と、息ぴったりじゃん」



