「これ、りんごジュース」
「え?」
「前に学食で、グレープフルーツジュース見て、露骨に嫌な顔してたことがあっただろ。柑橘系、苦手なのかと思って」
そんな細かいところまで、見られていたなんて。グラスを受け取るとき、指先が加賀見くんの手と、かすかに触れた。
「結局、パートナーは、決まったのか?」
「ううん。クラスの男子、もうみんな、先約があって……」
「そうか」
加賀見くんは、口元をほんのわずかに緩めた。
「なら、俺と踊ってくれるか」
「え」
「今日、副会長は、来賓の相手をしないといけない。スピーチもある」
「え、そういうの、会長がやるんじゃないの?」
「会長、今日は風邪で欠席なんだ。代役、押しつけられた」
肩をすくめてみせる仕草に、思わず笑ってしまう。
淡々とした言い方だったけれど、差し出された手は、かすかに震えている気がした。
私は、その手を見つめたまま、しばらく動けなかった。周りでは、何組も踊り始めている。みんなの視線が、こちらに向いている気がして、頬が熱くなる。
「……手、震えてるの、俺だけじゃないみたいだな」
「うっ……分かる?」
「分かる。……行くぞ」
そう言って、加賀見くんは私の手を、そっと握った。指先から伝わる体温に、心臓が大きく音を立てた。
ダンスフロアの真ん中で、私は改めて加賀見くんの手を取った。
「あの。私、こういうダンスとか、初めてで……」
「大丈夫。俺に、合わせろ」



