サマーガラ当日の土曜日。朝、我が家のリビングは、ちょっとした戦場になっていた。
「ドレスなんて、うち、一着も持ってないよ」
鏡の前で、私は途方に暮れていた。制服とウィッグはあっても、パーティー用のドレスまでは、さすがに用意していない。
「わたしの貸してあげる」
琴葉がクローゼットから、淡いラベンダー色のワンピースを取り出した。裾に、細かいレースがあしらわれている。
「これ、去年のガラで着たやつ。サイズ、たぶん合うと思う」
「え、いいの?」
「もちろん。彩葉ちゃんに、着てほしい」
袖を通すと、鏡の中に、また見慣れない自分が映った。三つ編みのウィッグをつけると、なおさら別人のようだった。
「うーん。なんか、服に着られてる感じがする」
「大丈夫だよ。日和ちゃんたちに、手伝ってもらいなよ」
鏡越しに、琴葉と目が合う。
「琴葉は、行かなくて平気なの? 本当は、琴葉が着るはずだったのに」
「わたしはまだ、学校に戻れないから」
琴葉はそう言って、目を伏せた。それからすぐに、いつもの声に戻る。
「彩葉ちゃんが、楽しんできてくれたらそれでいいの。ダンスも上手だろうね、きっと」
「運動神経だけは、自信あるからね」
軽口を叩きながらも、私は鏡の中の自分から目をそらせなかった。
琴葉が着るはずだったドレスを着て、琴葉が出るはずだったパーティーに、私が行く。
これで、本当にいいのかな。考えても、答えは出なかった。



