「それに、琴葉がずっと一人で頑張ってきたの、私、一番近くで見てきたから。今、私にできることがあるならやりたい。だって私は、琴葉のお姉ちゃんだから」
「彩葉……」
長い間、誰も何も言わなかった。点滴の落ちる音だけが、やけにはっきりと聞こえた。
やがて、父が深く息を吐いた。
「……お前がそこまで言うなら。ただし、一つだけ約束してくれ」
「なに?」
「彩葉自身がしんどくなったら、そのときはすぐに言うこと。琴葉の夢も大事だが、お前の生活が壊れてしまったら、それこそ本末転倒だ」
「お父さん……」
「琴葉のためにと言って、彩葉が無理をして潰れてしまうのは、俺たちが一番見たくない結末だ。分かるな?」
私は、しっかりと頷いた。
母もようやく、ふっと肩の力を抜いた。
「分かったわ。琴葉の学校には、私から『検査だけで、明日から登校できます』と連絡しておく。……親として、胸を張れることじゃないけど。やると決めたなら、中途半端はだめよ」
母は、私の頬に手を添えた。
「それと、怪我だけはしないでね」
私は、何度も深く頷いた。
「ママ。もう一つだけ、お願いがあるの」
琴葉が、小さな声で言った。
「三つ編み、彩葉ちゃんの髪じゃ結べないから……わたしと同じ長さのウィッグを、用意してほしいの」
母は目を丸くして、それからため息ともつかない笑いをこぼした。
「本当に、あなたって子は。倒れた日にまで」
母はスマホを取り出すと、「美容師の友達に、頼んでみるわ」と言って、慌ただしく廊下へ出ていった。
面会時間の終わり際、母は大きな紙袋を抱えて戻ってきた。



