「みお、また寝ぐせついてる」
朝の校門をくぐった瞬間、後ろからそんな声がして、私はぴたりと足を止めた。
振り返らなくてもわかる。
この少し低くて、余裕たっぷりな声の主は、幼なじみの橘斗真だ。
「うそっ、どこ」
慌てて頭を押さえると、斗真はふっと笑って私の隣に並んだ。
「右のへん。ほら、じっとして」
そう言って、斗真の手が私の髪に触れる。
指先がやさしく髪を整えるたび、心臓が落ち着かなくなる。
「はい、なおった」
「……ありがと」
「顔赤い」
「赤くないし!」
からかうように笑う斗真は、昔からずるい。
近い。やさしい。なのに、たまに本気でどきっとする顔をするから困る。
小さいころからずっと一緒だった。
家も隣同士で、登下校も当たり前みたいに一緒。
だから今さら意識するなんて、そんなの変だと思っていたのに。
最近の斗真は、少しだけおかしい。
教室に入って席につくと、仲のいい友達が身を乗り出してきた。
「ねえみお、さっきも一緒だったね。相変わらず仲よすぎ」
「ただの幼なじみだよ」
そう答えた瞬間、前の席にいた斗真がこちらを振り返った。
「ただの、ね」
その言い方が妙に引っかかって、私は目を丸くする。
「なに、その言い方」
「別に」
そっぽを向いた横顔は不機嫌そうで、でもどこか拗ねているようにも見えた。
すれ違い
放課後、私はクラス委員の仕事で少しだけ教室に残っていた。
やっと終わって廊下に出ると、見知らぬ男子が声をかけてきた。
「あの、小春さんだよね」
「えっ、はい」
「今日の移動教室でノート見せてくれて助かった。よかったら、連絡先――」
そこまで聞いたときだった。
「悪い。その子、今から俺と帰るから」
すっと私の肩を引き寄せたのは斗真だった。
驚いて見上げると、斗真は笑っているのに目だけがまったく笑っていない。
男子は気まずそうに「あ、ごめん」と言って去っていった。
静かになった廊下で、私は斗真を見上げた。
「ちょ、ちょっと。今のなに?」
「なにって」
「連絡先くらい、自分で返せたのに」
すると斗真は足を止めた。
夕方の光が差し込む廊下で、まっすぐに見つめられる。
「返してほしくなかった」
「……え」
「みおが、他のやつと仲よくするの、やだ」
いつもの軽い調子じゃない。
低くて、まっすぐで、逃がしてくれない声だった。
「斗真」
「幼なじみだからって、ずっと我慢してたけど無理」
一歩、斗真が近づく。
それだけで胸が苦しくなる。
「毎日一緒にいるのに足りない。誰かに取られそうになると、ほんとに嫌だ」
朝の校門をくぐった瞬間、後ろからそんな声がして、私はぴたりと足を止めた。
振り返らなくてもわかる。
この少し低くて、余裕たっぷりな声の主は、幼なじみの橘斗真だ。
「うそっ、どこ」
慌てて頭を押さえると、斗真はふっと笑って私の隣に並んだ。
「右のへん。ほら、じっとして」
そう言って、斗真の手が私の髪に触れる。
指先がやさしく髪を整えるたび、心臓が落ち着かなくなる。
「はい、なおった」
「……ありがと」
「顔赤い」
「赤くないし!」
からかうように笑う斗真は、昔からずるい。
近い。やさしい。なのに、たまに本気でどきっとする顔をするから困る。
小さいころからずっと一緒だった。
家も隣同士で、登下校も当たり前みたいに一緒。
だから今さら意識するなんて、そんなの変だと思っていたのに。
最近の斗真は、少しだけおかしい。
教室に入って席につくと、仲のいい友達が身を乗り出してきた。
「ねえみお、さっきも一緒だったね。相変わらず仲よすぎ」
「ただの幼なじみだよ」
そう答えた瞬間、前の席にいた斗真がこちらを振り返った。
「ただの、ね」
その言い方が妙に引っかかって、私は目を丸くする。
「なに、その言い方」
「別に」
そっぽを向いた横顔は不機嫌そうで、でもどこか拗ねているようにも見えた。
すれ違い
放課後、私はクラス委員の仕事で少しだけ教室に残っていた。
やっと終わって廊下に出ると、見知らぬ男子が声をかけてきた。
「あの、小春さんだよね」
「えっ、はい」
「今日の移動教室でノート見せてくれて助かった。よかったら、連絡先――」
そこまで聞いたときだった。
「悪い。その子、今から俺と帰るから」
すっと私の肩を引き寄せたのは斗真だった。
驚いて見上げると、斗真は笑っているのに目だけがまったく笑っていない。
男子は気まずそうに「あ、ごめん」と言って去っていった。
静かになった廊下で、私は斗真を見上げた。
「ちょ、ちょっと。今のなに?」
「なにって」
「連絡先くらい、自分で返せたのに」
すると斗真は足を止めた。
夕方の光が差し込む廊下で、まっすぐに見つめられる。
「返してほしくなかった」
「……え」
「みおが、他のやつと仲よくするの、やだ」
いつもの軽い調子じゃない。
低くて、まっすぐで、逃がしてくれない声だった。
「斗真」
「幼なじみだからって、ずっと我慢してたけど無理」
一歩、斗真が近づく。
それだけで胸が苦しくなる。
「毎日一緒にいるのに足りない。誰かに取られそうになると、ほんとに嫌だ」



