『ひとりの少年』

懐かしい。確か、こうだった。彼女に出逢った日は。

少し離れたところから聞こえた、カシャ、という撮影音。

そんなことを考えながらいつもの一眼レフカメラを持って、いつもの学校の帰り道を歩いていたその、雨の日。

僕は、彼女を見つけた。


所謂、一目惚れだった。
落雷の様に突然で、何より美しい。







雨の中、透明なビニール傘を差して、彼女は佇んでいた。
手にスマートフォンを持って、それからは有線の白いイヤホンが流れている。
恐らく、音楽を聴いているのだろう。そう思った。




彼女は、雨を撮っていた。





たまたま僕のカメラの端に写った女の子。彼女に強く惹かれ、一目で恋に落ちた。
今まで、映画でしか知らなかった、見たことのなかった、「一目惚れ」と言うものを知った。
心臓が速くなって、思わず立ち止まってしまう。そんな、知らない感覚。




その日は、何もできなかった。すぐに目を逸らしてしまって。
でもたった一瞬見えた姿が、酷く、目に焼きついていた。
僕はそのまま、心臓の鳴りが全く収まらないまま、帰宅した。
ずっと彼女のことが頭から離れなくて、ずっと彼女のことを考えてしまう。
勝手に考え込んで、妄想して、嫉妬して。




ああ、これが恋なのか。
そう思った。




自覚してからは単純で、彼女の目に留まりたくて、努力することにした。
もともと外見が酷く悪い訳でも、取り分け外見が良い訳でもなかった。
だけれど、それと、自分に自信が持てるか否かは、話が違う。
だから僕は、自分を愛せる様に、そして、彼女に見て貰える様に、努力した。
たくさん調べて、たくさん勉強して。



外見だけじゃなくて、中身も。



中身が汚れていた訳でも、輝いている訳でも無い普通の僕。
だから中身を変えなければいけない、と思った。
目立つように、彼女の目に留まる様に。



だけれど、次第に、それは必要無いと思った。



難しいからでも、出来ないからでも無い。


彼女には、僕そのものを見て、そして、出来るなら。


彼女に僕を、愛して、欲しい、と思った。

だからこそ僕は、中身は変えなかった。





こんな話、これを読む君たちにはどうだって良いだろう。
でも、話したい。
誰にでもあるだろう?
誰かに話したい、秘密のことは。

だから、良かれと思って、最後まで聞いてほしい。