独占愛は夜より深く。

夜。
湾岸迎賓館は、海を背にして静かに光っていた。

綺麗な場所だった。
けれど、その静けさの奥にあるものを知ってしまった今は、ただ冷たく見える。

ここで終わらせる。
兄の真実も。
月城家の闇も。
そして、要がずっとひとりで背負ってきたものも。

「準備はいいか」

恒一の低い声に、全員がうなずく。

私は要の隣に立った。
怖い。
足は少し震えている。
でも、もう隠さない。

すると要が、誰にも見えない角度で私の指先に触れた。

「大丈夫だ」

そのひと言に、私は小さくうなずく。

迎賓館の中へ入ると、奥の広間にはすでに人がいた。

月城蓮司。
東條玲央。
そして、その中央に立つ男。

月城宗岳。

要とよく似た目元。
でもそこにあるのは、温度のない威圧だけだった。
ひと目でわかる。
この人が頂点だ。

「来ると思っていた」

宗岳の声は静かだった。
怒鳴りもしない。
なのに空気そのものを押さえつけるみたいな重さがある。

要はまっすぐ前に出る。

「全部終わりだ」

「終わり?」
宗岳がわずかに笑う。
「証拠でも持ってきたか」

その瞬間、伊織が前へ出て端末を開いた。

「あります」

音声。
送金記録。
署名。
兄の残した証拠と、ホテルで拾った録音。
それらが次々に画面へ映し出される。

広間の空気が変わる。

蓮司の表情が初めて崩れた。
東條の目も鋭く細まる。

「白石さんのお兄さんが残したものです」
伊織が静かに告げる。
「あなた方の資金移動と、関与の記録は十分揃っています」

宗岳だけは、まだ表情を変えなかった。

「それで?」

低い声。
けれど次の瞬間、要が一歩前へ出る。

「それで終わりにするって言ってる」

その声には、今まででいちばん強い熱があった。

「兄貴を道具みたいに使って、紗菜を狙って、俺まで駒にする気だったんだろ」

宗岳の目が、ゆっくり要へ向く。

「おまえは月城の人間だ」

「違う」

要は即答した。

「俺は、おまえたちとは違う」

その言葉が、広間の中心でまっすぐ響く。

私はその背中を見つめた。
苦しくて、でも誇らしかった。
この人は、自分の血に飲まれずに立っている。

宗岳が小さく息をつく。

「愚かな子だ」

「そうかもな」

要の声はぶれない。

「でも、守りたいものくらい自分で決める」

その瞬間、宗岳の視線が私へ流れた。
冷たい。
ぞくっと背筋が冷える。

でも次の瞬間、要が私の前に立った。
完全に隠すように。

「見るな」

低いその声は、宗岳へ向けたものだった。

空気が裂けるみたいな緊張。
けれどもう、引き返せない。

外で動きがあった。
すぐに恒一が小さく言う。

「来た」

警察だった。
伊織がすでに証拠の送付と通報を済ませていたのだ。

一気に場がざわつく。
蓮司が舌打ちし、東條が出口へ動こうとする。
でも碧が先回りして笑った。

「残念。もう遅い」

宗岳の目が初めて鋭くなる。
けれど要は、その視線を真正面から受け止めたまま動かない。

「終わりだ」

もう一度、要が言う。

今度こそ本当に。
長かった夜が、ここでようやく切れる音がした気がした。