独占愛は夜より深く。

別拠点へ戻ると、空はもう朝だった。
それでも誰も疲れを口にしない。

「証拠は十分近い」
伊織が書類を整理しながら言う。
「でも宗岳本人を押さえないと逃げ道を作られます」

「今夜だな」
恒一が短く言う。

碧が地図を開く。

「宗岳が今夜入る場所は絞れてる。月城家の私邸じゃない。湾岸の迎賓館」

迎賓館。
人目を避けて会うには、最悪なくらい整った場所だった。

「蓮司も東條も呼ばれる可能性が高いです」
伊織が続ける。
「全員そろうなら、そこで終われます」

私は資料を見つめたまま、ゆっくり息を吸った。
兄の真実。
敵の正体。
そして要の父親。

全部が今夜につながる。

そのとき、要が部屋の外へ出る。
何も言わずに。
でも私は、追わなきゃいけない気がした。

廊下へ出ると、窓際に要が立っていた。
朝の光が横顔を白く照らしている。

「要」

呼ぶと、要が振り向く。
けれどその目には、いつもの強さの奥に少しだけ痛みがあった。

「悪い」

「何が」

「こんなとこまで巻き込んだ」

私はすぐに首を振った。

「違うよ」

一歩近づく。
要の前に立つ。

「ここまで来たのは、私が知りたかったから。お兄ちゃんのことも、要のことも」

要の目がわずかに揺れる。

「でも相手は俺の父親だ」

その言葉は、きっと私が思うよりずっと重い。
家を敵に回すことより重い。
血のつながりを、自分で断ち切る覚悟だ。

私は少しだけ迷って、それから要の手を取った。

「だから一人で行かないで」

要が息を止める気配がした。

「私も一緒に行く」

「紗菜」

「怖いよ。すごく怖い」

本音をちゃんと言う。
でも、その先もちゃんと言う。

「それでも隣にいたい」

朝の静かな廊下で、要はしばらく何も言わなかった。
やがて、ゆっくり私の手を握り返す。

「……勝てる気がする」

かすれた声。
でもその中に、確かな熱があった。

「おまえがそう言うと」

胸が熱くなる。

要は私の手を引き、そっと額を合わせた。

「今夜が終わったら」

低い声が落ちる。

「もう逃がさない」

どきっと胸が鳴る。
返事をする前に、要の指が私の頬に触れた。

「返事の続き、ちゃんともらう」

私は少しだけ笑って、うなずく。

「うん」

今度は迷わない。
終わったら、ちゃんと伝える。
好きだと。
もう離れたくないと。

要の目がやわらいで、ほんの一瞬だけ唇が額に触れた。
短いキス。
でも、それが今の私には何より強かった。