空が白み始めた頃、私たちはみなと中央駅の東口に着いた。
始発前の駅は静かだった。
人は少なく、シャッターの閉まった店が並んでいる。
そんな中で、コインロッカーの列だけが妙に冷たく見えた。
「三二七を探す」
恒一が低く言う。
要は私を自分のすぐ隣に置いたまま、ロッカーの番号を追う。
私は兄の手紙を胸の奥でなぞるみたいに、息を整えた。
三二七番。
古い鍵穴。
要が鍵を差し込む。
一度、止まる。
そして静かに回した。
かちりと小さな音がした。
胸が大きく鳴る。
扉を開けると、中には黒い封筒と、小型のレコーダーが入っていた。
それだけじゃない。
分厚い書類ファイルもある。
「当たりだ」
碧が小さく息をのむ。
伊織がすぐに中身を確認する。
書類には送金記録、会社名義、署名のコピー。
兄が追っていた裏の金の流れが、一本につながっていた。
「これ、かなり決定的です」
伊織の声が少しだけ強くなる。
「蓮司と東條だけじゃない。複数の会社と人間が噛んでいます」
私はレコーダーを見つめた。
兄が最後に残した声かもしれない。
そう思うだけで手が震える。
「聞くか」
要の声は低くてやさしい。
私はゆっくりうなずいた。
伊織が再生すると、少しざらついた音のあと、兄の声が流れた。
「……これを聞いているのが紗菜じゃないことを祈る」
その一言で、息が止まる。
兄の声。
間違いなく兄の声だった。
「もし紗菜がこれを聞いているなら、俺は最後まで止めきれなかったんだと思う。ごめんな」
私は唇をかんだ。
涙がまた滲む。
「蓮司と東條は、月城家の裏資金を動かしている。帳簿だけじゃ足りないと思って、音声と書類を分けて残した」
レコーダーの向こうで、兄が少し息をつく。
「でも一番危ないのは、その先だ。蓮司の上にまだいる」
その言葉に、全員の空気が変わる。
「上?」
恒一が低くつぶやく。
兄の声が続く。
「名前は、月城宗岳」
要が目を見開く。
その変化に、私はすぐ気づいた。
月城宗岳。
その名前を、要は知っている。
「現当主か」
碧の声から笑みが消える。
私は要を見る。
要の横顔が、今まででいちばん冷えていた。
「……父親だ」
低く落ちたその声に、胸が痛む。
そうだ。
蓮司の上。
月城家の頂点。
それはつまり、要の父親。
レコーダーは止まらない。
「宗岳は直接手を汚さない。全部、人を使う。蓮司も東條もその一部だ。もしここまで辿り着いたなら、紗菜、絶対に一人で向かうな」
私は強く目を閉じた。
兄は最後まで、私を守ろうとしていた。
音声の最後には、短い雑音のあと、かすれたひと言だけが残っていた。
「……頼む、月城要」
その名前に、私ははっと顔を上げる。
兄は知っていたのだ。
要が味方になるかもしれないことを。
もしかしたら最後の最後で、信じたのかもしれない。
レコーダーが止まる。
静まり返った駅の中で、要だけが何も言わなかった。
でも拳が強く握られているのが見えた。
「要」
私がそっと呼ぶと、要はしばらく黙ったまま前を見ていた。
それから、静かに息を吐く。
「終わらせる」
低い声。
揺らぎのない声だった。
「父親でも関係ない」
その言葉は重かった。
でも、迷いはなかった。
始発前の駅は静かだった。
人は少なく、シャッターの閉まった店が並んでいる。
そんな中で、コインロッカーの列だけが妙に冷たく見えた。
「三二七を探す」
恒一が低く言う。
要は私を自分のすぐ隣に置いたまま、ロッカーの番号を追う。
私は兄の手紙を胸の奥でなぞるみたいに、息を整えた。
三二七番。
古い鍵穴。
要が鍵を差し込む。
一度、止まる。
そして静かに回した。
かちりと小さな音がした。
胸が大きく鳴る。
扉を開けると、中には黒い封筒と、小型のレコーダーが入っていた。
それだけじゃない。
分厚い書類ファイルもある。
「当たりだ」
碧が小さく息をのむ。
伊織がすぐに中身を確認する。
書類には送金記録、会社名義、署名のコピー。
兄が追っていた裏の金の流れが、一本につながっていた。
「これ、かなり決定的です」
伊織の声が少しだけ強くなる。
「蓮司と東條だけじゃない。複数の会社と人間が噛んでいます」
私はレコーダーを見つめた。
兄が最後に残した声かもしれない。
そう思うだけで手が震える。
「聞くか」
要の声は低くてやさしい。
私はゆっくりうなずいた。
伊織が再生すると、少しざらついた音のあと、兄の声が流れた。
「……これを聞いているのが紗菜じゃないことを祈る」
その一言で、息が止まる。
兄の声。
間違いなく兄の声だった。
「もし紗菜がこれを聞いているなら、俺は最後まで止めきれなかったんだと思う。ごめんな」
私は唇をかんだ。
涙がまた滲む。
「蓮司と東條は、月城家の裏資金を動かしている。帳簿だけじゃ足りないと思って、音声と書類を分けて残した」
レコーダーの向こうで、兄が少し息をつく。
「でも一番危ないのは、その先だ。蓮司の上にまだいる」
その言葉に、全員の空気が変わる。
「上?」
恒一が低くつぶやく。
兄の声が続く。
「名前は、月城宗岳」
要が目を見開く。
その変化に、私はすぐ気づいた。
月城宗岳。
その名前を、要は知っている。
「現当主か」
碧の声から笑みが消える。
私は要を見る。
要の横顔が、今まででいちばん冷えていた。
「……父親だ」
低く落ちたその声に、胸が痛む。
そうだ。
蓮司の上。
月城家の頂点。
それはつまり、要の父親。
レコーダーは止まらない。
「宗岳は直接手を汚さない。全部、人を使う。蓮司も東條もその一部だ。もしここまで辿り着いたなら、紗菜、絶対に一人で向かうな」
私は強く目を閉じた。
兄は最後まで、私を守ろうとしていた。
音声の最後には、短い雑音のあと、かすれたひと言だけが残っていた。
「……頼む、月城要」
その名前に、私ははっと顔を上げる。
兄は知っていたのだ。
要が味方になるかもしれないことを。
もしかしたら最後の最後で、信じたのかもしれない。
レコーダーが止まる。
静まり返った駅の中で、要だけが何も言わなかった。
でも拳が強く握られているのが見えた。
「要」
私がそっと呼ぶと、要はしばらく黙ったまま前を見ていた。
それから、静かに息を吐く。
「終わらせる」
低い声。
揺らぎのない声だった。
「父親でも関係ない」
その言葉は重かった。
でも、迷いはなかった。



