独占愛は夜より深く。

高層ホテルは、街の灯りを映して静かに輝いていた。

大理石の床。
低く流れる音楽。
やわらかな照明。
そこにいる人たちはみんな上品で、私だけが場違いなんじゃないかと不安になる。

けれど隣には要がいた。

受付を抜けるときも、ラウンジへ向かうときも、自然な距離で私の腰に手を添える。
恋人に見せるため。
そうわかっているのに、その触れ方は妙にやさしくて、作戦だと忘れそうになる。

「顔、上げろ」

小さく囁かれて、私ははっとする。

「緊張が出てる」

「だって……」

「大丈夫だ」

要の声は落ち着いている。
それだけで少し呼吸が整う。

最上階ラウンジの近くまで来ると、伊織から通信が入った。

「東條、五分前に到着。個室エリアへ移動しました」

「蓮司は」

「まだです」

要は歩調を変えずに、私を窓際の席へ導いた。
夜景が広がる。
こんな綺麗な場所で、今から闇を追うなんて不思議だった。

「ここで待つ」

要が低く言う。
「俺が少し動く間も、目立つことはするな」

「うん」

返事をした直後、要がほんの少しかがむ。
外からは、ただ耳元で囁いている恋人同士にしか見えない距離。

「紗菜」

「なに」

「今日は綺麗だ」

思わず息が止まる。

今それ言う。
こんな緊張のど真ん中で。
でも、要の目は冗談なんかじゃなかった。

「だから余計、連れて帰りたくなる」

低く落ちた本音に、胸が強く跳ねる。

「……あとで」

やっとそれだけ返すと、要の口元がわずかにやわらいだ。

「約束な」

そして何事もなかったみたいに、要は離れる。
背中を見送るしかない私は、残された熱に困る。

そのときだった。

個室エリアのガラス越しに、見覚えのある横顔が映る。

月城蓮司。

そしてその向かいに座るのは、帽子を取った男。
鋭い目元。
冷たい表情。
モニターで見た影と重なる。

東條玲央。

私は思わず指先を強く握る。
見つけた。
ついに、兄の最期につながるふたりを同じ場所で。

けれど次の瞬間、東條がふいに顔を上げた。
ガラス越しに、まっすぐこちらを見る。

ぞくっと背筋が冷える。

気づかれた。
そう思った瞬間、要が戻ってきて私の肩を抱き寄せる。

「見るな」

「でも……」

「俺を見ろ」

低く言われて、私は反射みたいに要を見上げる。

「ばれても、慌てるな」

その声は静かで、ひどく落ち着いていた。

でも抱き寄せる腕は、いつもよりほんの少しだけ強い。
要も感じている。
この夜が、ただの偵察では終わらないかもしれないことを。