独占愛は夜より深く。

翌日の夕方。
別拠点の一室で、私は鏡の前に立っていた。

制服でも普段着でもない、落ち着いた色のワンピース。
髪も少しだけ整えられている。
自分じゃないみたいで、そわそわした。

「似合ってる」

振り向くと、入口にもたれた要がいた。

いつものラフな雰囲気とは違う。
黒のスーツに、整えられた髪。
無駄のない立ち姿。
危ういくらいかっこよくて、私は一瞬言葉を失った。

「……ずるい」

「何が」

「似合いすぎ」

そう言うと、要が少しだけ笑う。

「おまえもな」

さらっと返されて、顔が熱くなる。

要はゆっくり近づいてきて、私の髪に触れた。
耳の横にかかった細い束を、そっと指でよける。

「緊張してる」

「してる」

「無理もない」

その声が今日はやけに近い。
いつもより大人っぽい服装のせいか、同じ要なのに少し別人みたいで落ち着かない。

「でも、大丈夫」

そう言って、要は私の顎をほんの少し上げた。

「今日はずっと俺の隣にいろ」

まっすぐな目。
命令みたいなのに、どこか甘い。

私は小さくうなずく。
すると要の指先が、一瞬だけ私の頬をなでた。

「その顔、ほんと危ない」

「何それ」

「かわいすぎるってこと」

不意打ちでそんなことを言うから、心臓がうるさくなる。

そのとき、廊下の向こうから碧の声が飛んだ。

「総長、そろそろ本気で行くよ」

空気がすっと切り替わる。
要は名残を隠すみたいに、一歩だけ距離を取った。

「行くぞ」

差し出された手を、私はそっと取った。