エタってしまった小説の世界で、ヤンデレ化した勇者が離してくれません。~聖女と呼ばれ執愛されていますが……読者です!~

――――翌日。目が覚めると見計らったかの如くエギルによって朝食が用意された。

「芸がなく申し訳ないです」と運んできてくれたプレートには、昨夜と同じ青い色をした謎の果物と、真っ赤なスープが並ぶ。

魔族の領地にいるのでいちいち驚くことはなかったものの、見た目の割に美味しいというお約束的なものもなかった。

エギル曰く、人族の食事を作れる魔族は希少らしい。人体に影響はないとだけ自信を持って宣言してくれたので紗希は昨日と同じく感謝を述べた。

「作ってくれた方にもお礼を伝えて欲しいです」

「承知しました。泣いて喜ぶかと思います」

朝食を済ませてからは、エギルと共に魔王用の執務室に居るバルトの元へ向かった。

魔王というと常時王座に君臨し足組みでもしてそうだが、執務室まで設けられていて、意外と人間の王族とあまり変わらないのかもしれない。

「っ……今日も美しいです。聖女様……」

バルトは紗希が現れるとガタッと立ち上がり、座り心地の悪そうな椅子が揺れた。

その椅子はまるで周囲の色を吸収するような、黒く冷たい執務室の象徴のようだった。

「……ありがとうございます。今って、おはようございますで良いんでしょうか?」

紗希は訊ねた。

なにせこの城には、どこにでも大抵はあるものがなかった。

召喚当初は気にしていなかったが、紗希が案内された場所はもれなく窓がない。そして盤がついている時計すらもない。

バルトは机に上にある複雑な形をしてしている水晶に視線を移すと、淡い笑みを口元に乗せた。

「はい。おはようございます、聖女様。人族の領地で言えば太陽が街を照らし始めた頃合いです」

「よかった。寝過ぎたかと思って……この城って窓も時計もないんですね?」

その言葉にホッと胸を撫で下ろすと、紗希は部屋を見渡した。

執務室も同じだったのだ。

何か深い理由でもあるのだろうか、魔王城と言われなければまるで牢獄である。

「城の設計者がヴァンパイアだからですよ。彼らは闇を好むので」

バルトは嫌なことを思い出したかのように眉根を歪めたあと、ふっと笑みを零した。

「私情が強くないですか……」

「魔物なんてそんなもんです。個人主義で欲を糧に実存しているようなものですから」

そんなものなのか。

ならば牢獄っぽいと感じたこの城のコンセプトはもしかすると設計者からすると、この城は棺桶なのかもしれない。

「マイペースなんですね」

とても口に出して言えないが、ある意味ではバルトと通ずるところがある。

するとバルトは紗希を長椅子に誘導しながら流暢に話し始めた。

「時計も同じです。水晶の色でだいたいの時間は分かりますが、人族のように細かく刻むという概念がありません。俺は慣れましたが聖女様には違和感でしょう。人族用の時計も作らせるか……あぁ、ところで寝所は快適でしたか?もし部屋に不具合があれば改善するので……」

しかしバルトの言葉はエギルによって遮られる。

「――魔王様。霊蟲公が聖女様にご挨拶申し上げたいと言ってこちらに向かっているようですが、如何いたしますか?」

以前、会話にあがっていた名だ。
その名を聞いてバルトはあからさまに不機嫌になった。