エタってしまった小説の世界で、ヤンデレ化した勇者が離してくれません。~聖女と呼ばれ執愛されていますが……読者です!~

氷の蜘蛛を立体パズルのように組み立てる。
しかも形状なんて正直はっきりと覚えていない。けれど紗希にとってそれはやらない理由にはならなかった。

大人気ないことを言ってしまったあとは、特に。
幸いにも氷の塊はある程度大きさを保って転がっていたので運が良ければ組み立てられるだろう。

紗希は散らばった氷塊を手に取った。指先の皮膚が持っていかれぬよう持つのはなるべく短い時間で、考えて決めてから移動する。

「なぜこんな事をなさるのでしょう?」

背後でエギルに問われた。

「当てつけと、自分の正当化です……」

傍目から見ればただの当てつけのような悪足掻き。
意地を張って正当化しているだけの行為。

実際、それが原動力でもあるのだが……――――

「あとは勢いで極端なことを言ったなと、そこは反省したので……」

ドレスは要らないと言う前に確認すべきことがあったのに、すっ飛ばしてしまったことに対する罰の悪さがあった。
間に挟むべきものを、嫌な記憶が蘇り過敏になって蔑ろにしてしまった。

間を埋めるのは間しかない。
多分、これはそのための行為なのだ。
完成してもしなくても、過程を踏んだとちゃんと証明するために。

だって、子供じゃないのだ。
価値観が違ったからといって、このままバルトとの間に気不味い空気を持ちたくない。
歩み寄る姿勢だけは、ちゃんとしておこう。

冷静になるとそんな風に思えた。



「――これは一応、それっぽくなった……?」

「さすが聖女様です。人族は忍耐力があるのですね。魔族ならこんな事は誰もしようと思いません」

エギルから理解不能といった眼差しを受けながらも、なんとか組み立てる事は出来た。

今や紗希の手は感覚が殆どない。
例えるならグローブでも嵌めているかのような、痛いのか熱いのか感じ取れないほど分厚い何かに遮られているような状態になっていた。

「いえ……今回は頑張っただけです。いかがでしょう?試す価値ありますか、これ」

平面パズルですら何年ぶりかといったところに立体パズルをして、げっそりとした口調で問えば、エギルは神妙に頷いた。

「しかし生き返らせはしましたが、この蜘蛛をどうするのですか?今から五層に返品しますか?」

あれからエギルは直ぐに解凍と治癒を施し、氷漬けの蜘蛛はなんとか息を吹き返した。
今はごつごつとした長い脚をエギルに捕まれ、蜘蛛は引き摺られている。その蜘蛛の乱雑な扱いはどこかバルトに通ずるものがある。

「えっと。先に教えて欲しいんですけど、さっきは糸を採ったら殺すという話でしたよね。殺さずに採取って出来ますか?必要な量をもらえたら迷宮に帰すのが私の理想です」

バルトと話した時にすっ飛ばしてしまったことを問うと、エギルは幾許かの間を置いて頷いた。

「再利用出来るように、採取後は見逃すという事ですね。結論から申し上げますと可能です。魔王様には処理するよう言われましたが……聖女様のご意志に背くなとも言い含められておりましたので問題ないかと。むしろ五層の管理者が喜びそうです。手間ですがやってみましょう」

エギルの回答に紗希はほっと胸を撫で下ろした。
なんだ、初めからこうしていれば良かったのだ。

「ありがとうございます。では採れた糸で白いドレスをお願いします」

気が抜けて、情けなくもなって、紗希は眉尻を下げながら吐息を溢す。

「はい。後のことはお任せを……お疲れ様でした、聖女様。手を治療しますのでお貸しください」

それからエギルは凍傷になりかけていた紗希の手に治癒魔法をかけると、衣装室に移動して黒地のドレスの時以上の驚異的な早さで何着かのドレスを仕上げてきてくれた。

そのうちの勧められたものに若干の羞恥を感じながら紗希は袖を通した。
要望は聞き届けてもらえてたようで露出は控えめ、マーメイドラインの聖職者のようなデザインだが見方を変えればウエディングドレスとも取れないこともない。

鏡の前に立つとエギルは抑揚のない声の代わりに、瞳の奥を燃やして言った。

「お美しいです。聖女様」

「……ありがとうございます」

やはり若干のコスプレ感が否めないが、世界観が変わればきっと目に馴染んでいく事だろう。そう願いたい。