「申し訳ございませんでした。私が無能なばかりに」
バルトが迷宮の蜘蛛狩りに行ってしまった後、エギルの抑揚のない声が落ちた。
振り返ると双眸を伏せ、燃える尻尾が垂れ下がっている。
完成したドレスを前にした時、流暢に意匠を説明してくれた姿を思い出すと、目の前の姿とは明らかに異なっていて落ち込んでいるのだと気づいた。
「謝らないでください。こんな丁寧に作ってもらって感謝してます」
紗希は自らの袖口を見てから眉尻を下げた。
露出は高いが着心地はよく、人間業とは思えない速度で仕上がったドレスは丁寧に繕われているのが分かる。
「首って大丈夫なんですか?」
ドレスの件もだが、実はエギルの首も気になって仕方がなかった。
あんなにもあっさり刎ねられたこと自体衝撃だったが、なんともないように自分の頭を拾い上げるエギルにも慄いたのが正直なところだ。
他人の首……この場合、魔族の首だが、どさりと転がった首に対し目を白黒させた紗希は、本当にちゃんと繋がっているのか気が気がでなかったのだ。
「はい。無事に繋がっております。よくある事ですので慣れていますから、ご安心ください」
「あれがよくあることですか!?」
紗希は食い入るように言った。
エギルが他愛もないことのように言ってのけたので若干声が裏返って大きな声が出てしまった。
この世界は相変わらず常識を超えてくる。
理解するには一筋縄ではいかない事象が次々に巻き起こり紗希は気が遠くなった。
「ときに聖女様。ドレスに関して忌憚のない意見をお伺い出来ればと思います。私の目は節穴だったようなので、お気づきの点があれば教えてください」
エギルはバルトが憤りを見せた色の失態から学んだのか、自信を喪失中だからか、ふと紗希に尋ねた。
これはチャンスだ。
あのままでは同じデザインの色違いが仕上がってしまうだろう。伝えるなら今しかない。
紗希を聖女と勘違いしている押しの強いバルトが帰ってくれば、ツッコミが追いつかず要望を伝えるタイミングを見逃しかねない。
「そうですね。出来れば、今よりも露出を抑えていただけるとそっちの方が嬉しいです……胸元と脚周りを」
「なるほど。人族も我々の正装をすると同胞から聞いていましたが、聖女様の好みではなかったのですね」
それはきっと貴族の閨レベルの話ではないだろうか。
「はい。エギルさん的に控えめな方が私にはしっくりくるので有難いです。バルトさんもきっと分かってくれると思うので、お願いします」
「承知しました」
エギルは羊皮紙に今の発言を記録しているのか、羽ペンらしきものを走らせた。走らせたといっても彼女自身が持っているのではなく、長く尖った黒い爪の動きに合わせて羽ペンが勝手に動いていたのだが。
きっとこれで大丈夫だろう。
「ーーあの、エギルさんはバルトさんの部下なんですよね?」
羽ペンの動きが止まったところで紗希は徐に尋ねた。バルトを結末まで導けるか試すと決めた以上、周囲の人間関係を把握しておくことは重要だ。
「私の立場ということでしたら、魔王様の臣下の取りまとめをしております」
社長秘書的な立ち位置だろうか。
「なるほど……教えてもらいたいのですが、バルトさんは勇者ではなく、魔王なんですか?」
今度は思い切って、後回しにしていた問いを投げる。するとエギルは少し考えてから、視線をバルトが消えていった廊下を挟んだ別室へと投げた。
「正しくは、勇者であり魔王の座を引き継いだ御人です。前魔王レギオス様はバルトレッド様に打ち破れましたので」
バルトが迷宮の蜘蛛狩りに行ってしまった後、エギルの抑揚のない声が落ちた。
振り返ると双眸を伏せ、燃える尻尾が垂れ下がっている。
完成したドレスを前にした時、流暢に意匠を説明してくれた姿を思い出すと、目の前の姿とは明らかに異なっていて落ち込んでいるのだと気づいた。
「謝らないでください。こんな丁寧に作ってもらって感謝してます」
紗希は自らの袖口を見てから眉尻を下げた。
露出は高いが着心地はよく、人間業とは思えない速度で仕上がったドレスは丁寧に繕われているのが分かる。
「首って大丈夫なんですか?」
ドレスの件もだが、実はエギルの首も気になって仕方がなかった。
あんなにもあっさり刎ねられたこと自体衝撃だったが、なんともないように自分の頭を拾い上げるエギルにも慄いたのが正直なところだ。
他人の首……この場合、魔族の首だが、どさりと転がった首に対し目を白黒させた紗希は、本当にちゃんと繋がっているのか気が気がでなかったのだ。
「はい。無事に繋がっております。よくある事ですので慣れていますから、ご安心ください」
「あれがよくあることですか!?」
紗希は食い入るように言った。
エギルが他愛もないことのように言ってのけたので若干声が裏返って大きな声が出てしまった。
この世界は相変わらず常識を超えてくる。
理解するには一筋縄ではいかない事象が次々に巻き起こり紗希は気が遠くなった。
「ときに聖女様。ドレスに関して忌憚のない意見をお伺い出来ればと思います。私の目は節穴だったようなので、お気づきの点があれば教えてください」
エギルはバルトが憤りを見せた色の失態から学んだのか、自信を喪失中だからか、ふと紗希に尋ねた。
これはチャンスだ。
あのままでは同じデザインの色違いが仕上がってしまうだろう。伝えるなら今しかない。
紗希を聖女と勘違いしている押しの強いバルトが帰ってくれば、ツッコミが追いつかず要望を伝えるタイミングを見逃しかねない。
「そうですね。出来れば、今よりも露出を抑えていただけるとそっちの方が嬉しいです……胸元と脚周りを」
「なるほど。人族も我々の正装をすると同胞から聞いていましたが、聖女様の好みではなかったのですね」
それはきっと貴族の閨レベルの話ではないだろうか。
「はい。エギルさん的に控えめな方が私にはしっくりくるので有難いです。バルトさんもきっと分かってくれると思うので、お願いします」
「承知しました」
エギルは羊皮紙に今の発言を記録しているのか、羽ペンらしきものを走らせた。走らせたといっても彼女自身が持っているのではなく、長く尖った黒い爪の動きに合わせて羽ペンが勝手に動いていたのだが。
きっとこれで大丈夫だろう。
「ーーあの、エギルさんはバルトさんの部下なんですよね?」
羽ペンの動きが止まったところで紗希は徐に尋ねた。バルトを結末まで導けるか試すと決めた以上、周囲の人間関係を把握しておくことは重要だ。
「私の立場ということでしたら、魔王様の臣下の取りまとめをしております」
社長秘書的な立ち位置だろうか。
「なるほど……教えてもらいたいのですが、バルトさんは勇者ではなく、魔王なんですか?」
今度は思い切って、後回しにしていた問いを投げる。するとエギルは少し考えてから、視線をバルトが消えていった廊下を挟んだ別室へと投げた。
「正しくは、勇者であり魔王の座を引き継いだ御人です。前魔王レギオス様はバルトレッド様に打ち破れましたので」



