エタってしまった小説の世界で、ヤンデレ化した勇者が離してくれません。~聖女と呼ばれ執愛されていますが……読者です!~

――――エギルに仕上げてもらったドレスを身に着け、羞恥を堪えてバルトの前に現れるとその場はしんと静まり返った。

それからいくらか重い沈黙が続き、バルトは凍てついた声音でエギルに訊ねる。

「――これは、一体なんの真似だ?」

一つでも答えを間違えれば息の根を止められそうな雰囲気に満ちている。

「最高傑作にございます。我が一族の至高の作品です」

エギルは頭を上げバルトの冷えた視線を打ち返すかの如く熱心に見つめていた。

「お前の一族はサラマンダーだったか。配慮というものがないのか?彼女は聖女だ」

「私の母はサキュバスでございます」

次の瞬間、バルトが大きく腕を振り、びゅんと風の音が響くとエギルの頭部がその場に転がる。

「なっ!?!?なにやってるんですか!!え、エギルさん……っ」

紗希は動揺して瞳を揺らし、何度か口を開閉したものも声を張り上げエギルに駆け寄ろうとした。

しかしバルトによって腕を取られ阻まれる。恐る恐る振り返ると双眸を柔らげるバルトが首を振った。

「大丈夫ですよ。魔族はこれぐらいで死にませんから」

バルトの言う通り、確かにエギルは死んでいなかった。しばらくすると身体だけが動きだし自らの頭を見つけてくっつけ直したのだ。

そして再びバルトの前に進み出ると頭を垂れた。

さっき斬られたばかりだというのにそんなことをして落ちないのだろうか。

紗希のを不安をよそにエギルは淡々と尋ねる。

「申し訳ございません。この至高の作品について、なにか至らぬ点がありましたらお教えください」

絶対露出が高すぎたのがいけなかったのだ。

「見て分からないのか?」

「本当に申し訳ありません。皆目見当も……」

バルトの逆鱗に触れた理由がサキュバスの血が混じるエギルには分かっていない。最早種属レベルで違うので、無言の了解など無理な話だ。

項垂れるエギルに申し訳ない気持ちが芽生え、今後は注意しなければと紗希は己を戒める。けれど、まさかいきなり手拳で切りつけるなんて誰が想像するだろう。

今のところ首は大丈夫そうだが心配だ。

口を挟んで良いものか様子を伺っているとバルトは低い声でエギルに告げた。

「エギル、もう一度言う。彼女は聖女だ」

「はい。心得ております」

「だったらなぜ黒地の装束を身につけさせる?折角のデザインがゴミになるだろうが」

バルトは怒りを滲ませ冷ややかに告げる。


「聖女は、”白“だろ」

そっちなの!?スケベなデザインじゃなくて、色の問題だったの!?

「はっ……ーー魔王様の伴侶という概念に囚われ、このエギル失念しておりました」

エギルが我に返ったように双眸を大きく見開く一方で、紗希は頭が痛くなり瞼を固く閉じて唸った。

「しかし魔王様、白地のものはこの城にございません……」

「なぜ?」

「先日、霊虫公(れいちゅうこう)が配下の(むし)を数えるために白地の布を大量に消費しまして……我々も神聖な色は苦手故、備蓄もしておらず」

「くだらないことに使いやがって」

バルトの素とも取れる乱暴な口調は怒鳴ったわけではないのにしっかりと怒気を孕んでいた。

「糸は?」
「そちらも魔族には人気がないのでございません」

エギルは静々と応える。

「もう良い、分かった。第五層に行って俺が狩ってくる」

「あの、バルトさん……黒で全然いいと思います。むしろデザインを変更いただけるならそっちの方が」

「何を言っているんですか、聖女様。聖女様は白でなければいけません」

言葉を言い切る前に遮られ、バルトは紗希の肩を掴んだ。

「五層の剛鉄迷宮に強く美しい白い糸を吐く蜘蛛がいます。ちょっと行って戻ってきますので、エギルと共にお待ちください。我が愛しの君」

言ってバルトは背を向ける。

「迷宮って……迷宮に行くんですか!?」

止めようとして駆け寄り後をついてゆくもバルトは歩みを止めない。

「大事な聖女様のドレスですから。ご安心ください、俺にとっては庭みたいなものです」

「庭って……」

「一時間とかかりませんので。大人しく待っててくださいね」

そのあまりの勢いに、止めるのは無駄だと悟る。紗希の背後にはいつの間にやらエギルが居た。

普通、ドレスのために迷宮と呼ばれるような場所に行く人間がいるだろうか。

どうやらとんでもない男に召喚されたらしい。