エタってしまった小説の世界で、ヤンデレ化した勇者が離してくれません。~聖女と呼ばれ執愛されていますが……読者です!~

「聖女様に見合う最高級のドレスを用意しろ。今着ているお召し物は禁書と同じ扱いで厳重管理するように」

「承知しました」

エギルと呼ばれた女性は恭しく首を垂れたまま無機質な声音で返事をする。

そんな彼女をバルトは鋭い瞳で見据え、釘を刺すように付け足す。

「くれぐれも傷つけるなよ。彼女は人間だ。お前たちと違って脆い。その爪を僅かにでも引っ掛ければ首が飛ぶと思え」

何か壮大なやり取りに聞こえるが、命を張るような作業ではないはずだ。

そもそも着替え自体、紗希はまだ”着替えます”とは答えていないわけだが、とても断る雰囲気ではなかった。

「我が命に代えてもご命令を完遂いたします」

頭を下げたままエギルが返事をすると、彼女の足元の陰から黒い目隠しをした同じ容姿の女性が数人這い出てきて、思わず紗希は目を瞠った。

それぞれの手には鋏と針、そして長い紐。裁縫道具なのだろうが、一見すると武器と見紛う。

「聖女様。俺は一旦退室しますね。後のことはエギルに一任しますがご安心ください」

バルトは紗希に顔を向けると、人が変わったかのように目尻を下げて微笑んだ。

エギルに対する態度と紗希に対する態度に温度差がありすぎる。

最早「はい……」と乾いた返事をするしかなかった。