『分からない』と答えた先輩の顔を、もう一度思い出す。
ずるいくらい綺麗で、それでいて、迷子の子どもみたいに頼りない目をしていた。
あの顔を見たとき、私は「可哀想」とか「心配」とか、そんな言葉じゃ片付けられない何かを感じていた。
こんなふうに、先輩の弱いところを見せてもらえるのは、もしかしたら私だけなんじゃないだろうか。
だとしたら、いつか須藤先輩が、本気で誰かを好きになる日が来るとしたら。
その隣に立っているのは……きっと私じゃない。
──そう思った瞬間、喉の奥がぎゅっと詰まって、うまく息が吸えなくなった。
どうして? どうして私は、そんなことを想像して泣きそうになっているんだろう。
嫌だ。他の誰かが先輩の隣に立つなんて、考えたくもない。
その瞬間、頭の中で何かが、かちりと音を立てて嵌まった。
……あぁ、そうか。気づいてしまった。
これはもう、疑いようがない。
私は、須藤先輩のことが好きなんだ。
自分でその言葉を思い浮かべた途端、頬が熱くなって、同時に泣きたいような気持ちが込み上げてきた。
嬉しいのか、苦しいのか、自分でもよく分からない。
ただ、これまでずっと「係の関係」という言葉で誤魔化してきた感情に、初めてはっきりと名前がついてしまった。
窓の外では、七月の夜空に、遠くの入道雲が微かに光っていた。
その光を見つめながら、私はしばらく動けなかった。
自分の気持ちに気づいてしまった今、明日からどんな顔で、先輩に会えばいいんだろう。



