保健室の目覚まし係になったら、学校一の沼男に捕まりました


「はい、お疲れ様。咲奈ちゃん」

「先輩も、お疲れ様でした」

マスクを外した先輩と、アイスの包みを開けて、こつんと軽くぶつけ合う。

まるで乾杯みたいな仕草に、思わず笑いがこぼれた。

「ん、うまっ。咲奈ちゃん、チョコも一口食べる?」

「えっ、い、いいです! 自分のがありますから」

「遠慮しなくていいのに。ほら」

そう言って、自分のアイスを口元近くまで差し出してくる先輩。

至近距離でのぞき込まれる綺麗な瞳と、ほんのり甘いチョコの香りに、私は思わず息を止めた。

あまりの距離の近さに耐えきれず、私は逃げるように自分のバニラアイスを口へ運んだ。

すると、先輩が「ふはっ」と可笑しそうに笑う。

「咲奈ちゃん、口元。バニラついてる」

「えっ!?」

慌てて口元を拭う私を見て、先輩は満足そうに目を細めた。

「……ほんと、反応がいちいち可愛いな」

ポツリとこぼされたその呟きは、ぬるい夕風に乗って、まっすぐ私の耳に届いた。

〜〜っ、からかわないでほしい。

急激に耳まで熱くなっていくのを隠したくて、私は言葉を返す代わりに、また勢いよくバニラアイスを頬張る。

ひんやりと甘いアイスを味わいながら、私はふと、こんなふうに誰にも見つからない場所で、先輩とふたりきりで過ごす時間が、たまらなく愛おしく感じられた。

ぬるい夕風の中に、夏の始まりを告げる蝉の声と、アイスを齧る音だけが静かに響いている。

思い返してみれば、先輩とこんなふうに学校の外で過ごすのは初めてかもしれない。

この時間が、ずっと続けば良いのに……。