保健室の目覚まし係になったら、学校一の沼男に捕まりました


【海里 side】

咲奈ちゃんと別れて、ひとり帰り道を歩きながら、俺は今日一日のことを思い返していた。

急な現場で、スタッフに謝られながら何度も撮り直しをして。

正直、身体はくたくただった。

なのに、頭の片隅ではずっと、咲奈ちゃんのことばかり考えていた。

いつもの時間に保健室に行って、俺がいなかったら、あの子はどんな顔をするんだろう。

もしかして、心配してくれるだろうか。

そんなことばかり気にしている自分に、途中で気づいて、ひとり苦笑いしてしまった。

今まで、こんなふうに誰かの反応を想像して、一喜一憂したことなんて一度もなかった。

他の女の子と付き合っていたときだって、正直、相手がどう思っているかなんてあまり深く考えたことがなかった気がする。

向こうが好きでいてくれるなら、それでいい。

そのくらいの温度感で、いつも関係が終わっていった。

正直に言えば、今日みたいに急にいなくなったら、咲奈ちゃんがどんな顔をするのか。

そういうのを、ちょっとだけ確かめてみたい気持ちも、なかったわけじゃない。

我ながら、意地の悪い性格だと思う。

でも、いざ本当に一日会えないだけで、こんなに気になってしまうなんて、自分でも予想外だった。

だから、自分が誰かの反応をこんなに気にしていることに、自分自身が一番驚いていた。

さっき、下駄箱で咲奈ちゃんが『普通でした』と答えるまでの、ほんの一瞬の間。

あの間に、なにを考えていたんだろう。

俺のこと、少しは気にしてくれていたら良いのに──なんて、柄にもないことを思っている自分に気づいて、また笑ってしまう。

なんで、あの子が来ないと、こんなに気になるんだろう。

答えの出ない問いを抱えたまま、俺は雨上がりの空を見上げて、しばらく立ち止まっていた。

【海里side 完】