「撮影終わって、帰ってきたんですか?」
「うん。ごめんね、今日いきなり呼び出されてさ。咲奈ちゃんに連絡する暇もなくて」
先輩が、申し訳なさそうに眉を下げる。
「あ、いえ。柄本先生から聞きました。お仕事、大変でしたね」
「まぁ、急な差し替えがあったみたいでさ。それより、咲奈ちゃん……もしかして、俺のこと心配してくれた?」
「べ、別にそういうわけじゃ」
「その顔、絶対心配してた顔だ」
にやりと笑う先輩に、私は言葉に詰まる。
「まぁ、いいや。せっかくだし、少しだけ話してく?」
そう言って先輩は、下駄箱の近くの壁に軽くもたれかかった。
私も釣られるように、隣の壁に背をつける。
まだ周囲が気になって、廊下の先に目をやってしまう自分がいたけれど、幸い今のところ知った顔は見当たらない。
肩が触れるほどの距離ではないけれど、ふたりの間の空気が、いつもの保健室とは少し違う近さに感じられた。
「今日さ、急に呼ばれて現場行ったら、思ったより長引いてさ。移動中もずっと、時計気にしてたんだよね」
「時計、ですか?」
「うん。咲奈ちゃんが、俺のこと待ちくたびれて怒ってないかなって、なんか気になって」
思いがけない言葉に、耳の先がじわりと熱くなる。
まさか、先輩のほうが私のことを気にしてくれていたなんて。



