「あら、平沢さん。もしかして、須藤くんを探してるの?」
奥のデスクから、養護教諭の柄本先生が顔を出した。
珍しく、今日は席にいたらしい。
「あ、はい。いつもここにいるはずなんですけど……」
「須藤くんなら、急な撮影の呼び出しがあったとかで、午前中に早退したわよ」
「え、そうなんですか?」
「ええ。事務所の人が、慌てて迎えに来てね。急いでいたみたいだったから、平沢さんに何も言えなかったんじゃないかしら」
柄本先生の言葉に、私はなんとなく相槌を打つ。
「わざわざ来てくれたのに、ごめんなさいね」
「い、いえ。大丈夫です」
そう言って保健室を後にしたけれど、なんだか胸のあたりがもやもやしていた。
たった一日、先輩がいないだけ。
それだけのことなのに、どうしてこんなに、ぽっかり穴が空いたみたいな気持ちになるんだろう。
「……別に、いつものことじゃない。仕事なんだから」
自分にそう言い聞かせながら、私は誰もいない廊下を歩いて教室へと戻った。
その日の午後の授業は、ずっとどこか上の空だった。



