「あー、雨の日は、外ロケならスタジオに切り替えたり、日程をずらしたりすることが多いかな……でも、雨よりキツいのは寒さなんだよね」
「え、そうなんですか?」
「去年の冬とか最悪だったな。真冬の屋外撮影なのに夏物の半袖シャツ一枚でさ。撮影直前まで上着とカイロで体を温めて、合図がかかったらそれ全部脱いで、凍えながら爽やかな笑顔作るんだから。数秒のカットのために、何回もそれ繰り返してさ」
「大変なんですね、モデルさんも」
「でしょ? だからさ、もっと俺のこと労ってくれていいんだよ?」
わざとらしく肩を落としてみせる先輩に、思わず笑ってしまう。
そんな他愛もない会話が、私にとってはいつの間にか、一日の中で一番落ち着く時間になっていた。
「そういえば、咲奈ちゃん。今日の髪型、いつもと違う結び方じゃない?」
「あ、気づきました? 雨で広がるから、いつもよりきつく結んでるんです」
「あ、シュシュ。今日もつけてくれてるんだ」
先輩の視線が、髪に結んだ淡いピンクへと落ちる。
「約束、しましたから」
「毎日つけてくるって言ってくれたの、地味に嬉しいんだよね。ちゃんと大事にしてくれてるんだなって」
さらっと言われた一言に、頬が熱くなるのを誤魔化すように、私は先輩の背中を軽く押す。
「もう、早く起きてください。時間なくなりますよ」
「はいはい」
そんな、いつも通りの昼休みを終えて、私は教室に戻った。
まさかこのあと、あんなことになるなんて、このときはまだ知らなかった。



