「キャー! 海里くん〜」
「須藤くん、今日もかっこいい」
いま沢山の女の子たちに囲まれている先輩が、とてつもなく遠く感じる。
あれ、何だろう。この痛みは……。
さっきまで、あんなに嬉しかったのに。
私は、シュシュに触れていた手をそっと離した。
先輩の周りに群がる女の子たちを見ていると、急に自分がちっぽけな存在のように思えてくる。
俯いたまま、足だけが早足になっていく。
私なんて、その他大勢のうちのひとりに過ぎないのかもしれない。
シュシュをくれたのは、きっと単なる気まぐれか、お礼のつもりだっただけで。
土曜日、雑貨屋で覚えたあの小さな痛みが、今はもっと大きくなって、胸の真ん中に居座っている。
先輩にとっての「特別」と、私が思っていた「特別」は、きっと重さが全然違うんだろう。
廊下を歩く途中、同じクラスの子に「おはよう」と声をかけられて、我に返る。
「あ、おはよう」
普段通りに挨拶を返しながらも、心の中はまだ、さっきの光景でいっぱいだった。
教室に着き、席についてからも、頭の中で何度もあの瞬間がリピートされる。
先輩に群がる女の子たちの黄色い声。
その輪の中で、少し困ったように笑っていた先輩の顔。
やっぱり私は、その他大勢の一人でしかないのかもしれない。
そう思うだけで、胸の奥がすっと冷えていく。
髪に揺れる、淡いピンク色のシュシュだけが、さっきまでの嬉しかった気持ちの名残のように、私の心をかすかに温めていた。



