「海里くんの元カノの話、最近また聞いたんだけど。三年の先輩、まだ引きずってるらしいよ」
「……そう、なんだ」
「なんか、海里くんって本気で好きになった人、実は今までひとりもいないんじゃないかって噂もあってさ」
軽い調子で語られたその話に、私はうまく相槌を打てなかった。
チャイムが鳴り、担任の先生が教室に入ってくる。
私は何気なくノートを開きながら、窓の外の雨音に耳を澄ませていた。
◇
その週末は、珍しく雨が上がっていた。
「咲奈、一緒に参考書買いに行かない? 駅前のショッピングモール」
金曜日の放課後。梨沙子にそう誘われて、私は二つ返事で頷いた。
期末テストもそろそろ視野に入ってくる時期だし、ちょうど数学の参考書を新調したいと思っていたところだった。
翌日。土曜日の昼過ぎ、私は梨沙子と待ち合わせて、駅前のショッピングモールへと向かった。
普段の制服ではなく、白のシンプルなカットソーにデニムスカートという、着慣れた私服姿。
久しぶりに学校の外で友達と出かけるのは、なんだか少し新鮮な気分だった。
駅の改札を出てすぐ、大きなファッションビルの壁一面に貼られた広告が、視界に飛び込んできた。
「……っ」
思わず、足が止まる。
見上げるくらいの大きさで、須藤先輩が涼しい顔でこちらを見下ろしていた。



