「咲奈、お帰り。昼休みギリギリだったね」
「うん、ちょっとね」
自分の席に腰を下ろしながら、私はふと今朝の梨沙子の言葉を思い出す。
『今日のリボンの結び方、可愛くない?』
あのとき、素直に喜べなかった自分がいた。
いつもみたいに、心のどこかで「社交辞令」だと決めつけて、ちゃんと受け取ろうとしなかった。
でも、須藤先輩に言われたことを思い出すと──ちゃんと受け取ってみたい、と、今は少しだけ思える。
「ねぇ、梨沙子」
「ん?」
「今朝は、ありがとう。制服のリボンのこと」
「え? 急にどうしたの」
きょとんとした顔をする梨沙子に、私は小さく笑ってみせる。
「ううん、何でもない。ただ、ちゃんとお礼言えてなかったなって思って」
「変な咲奈。……でも、そういうとこ好きだよ」
あっさりとした調子で返ってきた言葉に、また胸の奥がじんわりと温かくなる。
たったそれだけの、些細なやり取り。
だけど、今の私には、それが少しだけ大きな一歩のように感じられた。



