「……先輩の言うこと、まだ全部は信じられないですけど」
「うん」
「少しだけなら、信じてみてもいいかなって、思いました」
自分でも驚くくらい素直な言葉が、口からこぼれ落ちた。
須藤先輩は、一瞬目を丸くしたあと、いつもよりずっと優しい笑みを浮かべる。
「そっか。それで十分だよ」
窓の外から差し込む午後の光が、先輩の横顔をやわらかく照らしていた。
その光景を目に焼き付けながら、私は自分の中で何かが少しだけ変わり始めているのを感じていた。
胸がいっぱいで、しばらくうまく言葉が出てこない。
そんな私を待つように、須藤先輩もしばらく黙ったままだった。
やがて、その静けさを先輩のほうから破った。
「あ、そうだ」
保健室を出ようとする私を、先輩が呼び止める。
「咲奈ちゃんの連絡先、聞いてもいい? 目覚まし係の連絡用に、あったほうが便利かなって」
「あ……そうですね。分かりました」
差し出されたスマホに、少し緊張しながら自分の番号を打ち込む。
「ありがと。何かあったら連絡するから」
そう言って笑う先輩に小さく頷いて、私は保健室をあとにした。
──カラカラ。
保健室のドアを閉め、廊下に出て深呼吸をする。
胸の奥が、まだじんじんと熱い。
チャイムが鳴る直前、急いで教室へ戻ると、梨沙子が自分の席で教科書を開いていた。



