保健室の目覚まし係になったら、学校一の沼男に捕まりました


「俺が咲奈ちゃんを可愛いって言うのは、社交辞令とかじゃないから。誰にでも言ってるわけじゃない」

いつものからかうような軽さは、一切ない。

少しだけ低い、まっすぐな声。ハチミツ色の瞳が、誤魔化すことを許さないように私を射抜いていた。

「……それだけは、勘違いしないでほしいな」

心臓が、跳ねる。

信じたい、と思う気持ちが、じわりと広がっていく。

でも、それと同じくらいの速さで、冷たい水を差すような声が、頭の隅で響いた。

この人はきっと。今までだって、同じような言葉を、他の誰かにも言ってきたんじゃないの……?

去年だけで三人。一ヶ月と、もたずに終わった関係。

前に、廊下で聞こえてきた、『本気になったら痛い目を見る』という誰かの声。

この人にとって、こういう言葉はきっと、息をするくらい自然に出てくるものなんだ。

そう考えると、せっかく緩みかけた心に、また薄い膜が張っていくのが分かった。

信じたい気持ちと。

どうせまた、都合よく使われて終わるだけじゃないのか、という怖さと。

そして、田辺くんに拒絶されたときの、あの日の痛みが、古い傷口のようにじくじくと疼く感覚と。

三つの感情が、胸の中でせめぎ合っていた。

だけど、いま目の前にいる須藤先輩の眼差しは、そのどれとも何かが違う気がした。

からかうような軽さも、上っ面だけの甘い言葉も、そこにはない。

ただ真剣に、私の言葉を待っている、それだけの目。