数日後。廊下を歩いていたとき、教室の中から、あの子の声が聞こえてきた。
「え、マジで? お前、平沢咲奈に告白されたの?」
友人らしい男子の声だった。
「そうそう。この前、放課後に呼び出されてさ」
田辺くんが答える声。
「正直、ないわー。悪いけど」
軽薄な笑い声。
私の必死だった気持ちが、私の名前が、教室の中で無造作に踏みにじられ、笑い話の種にされている。
かあっと耳が熱くなったかと思うと、次の瞬間には指先から体温が引いていくのが分かった。
その場から動けなくなって、崩れそうになる膝を必死でこらえながら、廊下の壁に背をつけたまま息を潜めていた。
喉の奥がカラカラに乾いて、うまく息が吸えない。
惨めさとショックで、視界がぐにゃりと滲んだ。
ポロポロと溢れそうになる涙を、私は慌てて制服の袖で力任せに拭った。
こんなところで泣いたら、余計に惨めになる。
そう思って、唇をかみ締めながら必死に堪えた。
それからしばらく、私は田辺くんと目を合わせることすらできなくなった。
彼のほうは、何事もなかったかのように、いつも通り笑っていたけれど。
私だけが、あの日のことをずっと引きずっていた。
それ以来、私は「女の子らしさ」というものに、勝手に苦手意識を持つようになった。
可愛いとか、そういう言葉をかけられるたびに、心のどこかで「どうせ本気じゃない」「社交辞令だ」と決めつけるようになったのは、多分あの日からだ。
自分を守るための、ちっぽけな癖みたいなものだった。



