保健室の目覚まし係になったら、学校一の沼男に捕まりました


保健室のドアの前で、私はいつもより長く立ち止まっていた。

木の扉に手をかけたまま、深呼吸をひとつ。

──今日は、やっぱりやめようか。

そんな考えが、本気で頭をよぎった。

このまま何もなかったふりで顔を合わせるのも、気まずい。かといって、謝るべきなのか、それとも謝られるのを待つべきなのか、答えは出ないままだ。

いっそ、今日だけ体調不良ってことにして、引き返してしまおうか。

そこまで考えて、私は小さく首を振った。

ううん、駄目だ。

逃げたところで、明日も同じことで悩むだけだ。それに、目覚まし係を放り出したままにしておくのは、自分の性分が許さない。

──よし。

意を決してドアを開けると、須藤先輩はベッドの上で座っていた。

いつもなら横になって眠っているはずなのに、今日はちゃんと起き上がって、入口の方をじっと見つめている。

視線が合うと、先輩はどこか居心地悪そうに、気まずさを誤魔化すように視線を泳がせた。

「……あ。咲奈ちゃん」

「……」

私は何も言わずに、ドアの横で立ち尽くす。

先輩は頭を掻きながら、いつもより低く、歯切れの悪い声で口を開いた。

「……昨日は、ごめん。本当に」

「……っ」

思ってもみなかった言葉に、息が詰まる。