キスを拒んだら、学校一の沼男に捕まりました


そんなふうに、先輩の気まぐれな「命令」に振り回される日々が続いた。

ある日の昼休みも、保健室で須藤先輩が身を乗り出してきた。

「なぁ、咲奈ちゃん。今日の日直、俺の代わりにやっといてくれない?」

「それは、流石に無理です」

「えー、なんでよ。黒板消して、日誌書くだけじゃん」

「私、先輩と同じクラスですらないんですけど。他クラスの一年が入っていって、日誌書いてたらホラーですよ」

「そこをなんとか」

「なんともなりません」

きっぱりと突っぱねると、須藤先輩はわざとらしく肩を落とした。

「咲奈ちゃんって、ほんと融通利かないよねぇ」

「融通じゃなくて、無理なものは無理なんです」

「……ふーん。今の、ちゃんと断れて偉いね」

先輩が、どこか面白がるような目でこちらを見る。

「咲奈ちゃんがどこまで俺に付き合ってくれるか、実はちょっと試してたんだ」

「……はい?」

一瞬、頭の中が真っ白になった。

胸の奥で、すっと冷たい風が吹いたような気がした後に、今度はじわじわと熱い怒りが込み上げてくる。

頼まれてもいないスポーツドリンクまで買って、先輩のために右往左往していた自分が、途端に惨めで馬鹿らしく思えてくる。

からかわれていた? 遊ばれていた?

私が本気で心配したり、向き合ったりしていた時間を、この人は「実験」みたいに楽しんでいただけなんだ。

「……試してたって、最悪ですね」

「え、咲奈ちゃん?」