ほんの一瞬、掠れただけ。
たったそれだけのことなのに、指先から熱が伝わってきたみたいで、心臓が跳ね上がった。
「ありがと、咲奈ちゃん」
須藤先輩がニッコリ笑って、女子たちのほうへと軽い足取りで歩いていく。
「海里く〜ん!」「おはよう!」と歓声が上がる中、私は先輩の鞄を両手で抱えたまま、その背中を見送るしかなかった。
さっきの笑顔とは違う、愛想の良い作り笑い。
学校中の人気者としての『須藤海里』は、いつもこうして周りに魅せる顔を作っている。
あの中の誰かも、いつかは『元カノ』って呼ばれるようになるのかな。
昨日メロンパンを食べたときの、あの顔を見せる相手は、私だけなんだろうか。
「……ずるいですよ、先輩」
ぽつりと小さく呟いた声は、女子たちの黄色い声援にかき消されて消えた。



