こんな顔で笑いかけられたら、誰だってきっと勘違いしてしまう。
そうやって、これまで何人もの女の子が本気になって、そして痛い目を見てきたんだろうか。
「ん〜、幸せ。咲奈ちゃんが買ってきてくれたパンだからかな、いつもより美味い気がする」
「そんなわけないでしょう。普通の購買のメロンパンです」
「いや、絶対違うね。咲奈ちゃんフィルターがかかると、なんでも美味しくなるんだよ」
適当なことばかり言う先輩に、参ったなと思いつつも、さっきの笑顔が焼きついて離れなくて、私はごまかすように窓の外へ視線を移した。
私は、絶対に本気になんてならない。
自分にそう釘を刺すようにしながら、私はぬるくなった牛乳を一気に飲み干した。
◇
先輩の「お願い」は、保健室の中だけにとどまらなかった。
「咲奈ちゃん、これ持っといて」
翌朝。登校して早々、下駄箱の前でいきなり須藤先輩に呼び止められ、ズシリと重い鞄を押しつけられた。
「な、なんでですか!?」
「今から女子に囲まれるのが見えてるから。荷物持ってると、身動き取れなくて危ないんだよね」
言われてみれば、廊下の向こうから須藤先輩に気づいた女子たちが押し寄せてくる気配がする。
「……分かりました。持ちます」
渋々鞄を受け取るとき、須藤先輩の長くて温かい指先が、私の手に触れた。



