キスを拒んだら、学校一の沼男に捕まりました


「じ、自分で拭きますから!」

慌てて顔を背けると、頬に触れる寸前だった指先が、宙で止まった。

「……なんだよ、避けなくても」

少し不満げな先輩の声に、心臓がまだドキドキと落ち着かなかった。

慌ててポケットからハンカチを取り出し、頬を拭う。恥ずかしさで、耳まで熱くなっているのが自分でも分かった。

「ほんと咲奈ちゃんって、たまに残念だよね」

「うるさいです」

そう言い返しながらも、私は密かに思う。

こんな失敗、誰にも見られたくなかったのに。よりによって、先輩の前で。

「はい、どうぞ」

須藤先輩が、自分のハンカチを差し出してくる。

「……自分のがあるので、大丈夫です」

「そう? なら、いいけど」

須藤先輩がふっと笑って、包みを開けたメロンパンを一口、かじった。

「んーっ、美味い!」

その瞬間、いつものからかうような表情とは違う、ごく自然な笑顔がこぼれる。

作られたものじゃない、ただ嬉しそうなだけの顔。

……なんだろう、この顔。

見た瞬間、胸の奥がキュッと締めつけられるような感覚がして、私はとっさに手元の牛乳パックへ視線を落とした。

さっき聞いた「元カノ」の話を思い出す。